ハ、疾病学に限局した場合の科学的背景
ヤスパースによると、「総合は人間存在に関する論理としてでは無しに、方法論的にのみ行われる。」即ち、全体としての人間を見るとき、「窮極に存在するものは方法の組織的秩序であって、総体的な見取図ではない」このことは対象になりうる現存在から人間を区別するところの自由性の領域を例として考えるだけでもその理解の手がかりとなるであろう。さて、ここでは生物学的現存在としての人間存在に限局して考えるわけである。ここでは、知ったものをまとめて一全体とするところの一切の整理、それから、全体に於ける存在を明瞭にすることが課題であり、全体に於ける存在は理念としての真理に導かれて、そこから、研究される諸対象が現われてくる。ここで重要なことは、現実の中のうち世界という包括者は対象ではなくて理念であり、我々が認識するもので、世界それ自体ではないということであろう。又一方、科学は基盤を欠いてはならない。ヤスパースの場合は現象学による事実の報告が基盤である。現象学的記述が集積されたものを整理するときの方法について、理念を真理として、対象の実在にとらわれてはならないということであろう。従って、認識態度としては、要素と全体との間を往復しながら、絶えず歩んでいくことを心がけるべきであり、理念が真理であることを自己誤謬に対して打ちたててゆく態度を堅持することが、方法論上必要であるということである。
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