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論文1 「Allgemeine Psychopathologie」(Jaspers,K)について
<Subtitle>分裂病の治癒可能性に焦点をおいて

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論文1 Top Page (序文)
1、分裂病の治癒可能性に対するヤスパースの見解
2、分裂病は脳病か
 イ、ヤスパースの見解の概要
 ロ、疾患単位を理念とする研究の概要
 ハ、疾病学に限局した場合の科学的背景
3、分裂病の症状の心理学的理解の可能性について
 イ、ヤスパースの見解の概要
 ロ、分裂病に於ける精神療法の可能性
4、精神病理学と脳病理学の共働の道
 イ、ヤスパースの現象学の特徴
 ロ、真の理論と精神病理学の理論
 ハ、両者の共働の今日的意義
 ニ、分裂病の脳所見解明後の問題
5、治癒過程考察の欠如について(ヤスパースの)

おわりに
参考文献
2、分裂病は脳病か

イ、ヤスパースの見解の概要

いわゆる三大精神病に対して「これら精神病の多くがいつかは認知できるようになる身体的基礎をもっていることはもちろん承認され、その時はこの群から第一群へ疾患が入れ替ることもあろう。注1特に___、それから分裂病圏の症例----それが身体疾患と脳疾患の特色をもつことは多くの精神病医が疑問視するところはほとんどない注2----は器質的疾患に接近している。」(下巻P.77)(第一群:精神障碍をともなう既知の身体疾患)「疾患群における症状の診断上の優位」の項で、「この状況は一つの比喩で具体的にあらわせる----病の症状はいくつかの面のように重なりあっていて、上に神経症症状(----)、その下に躁鬱病性症状、その下に病的過程(精神分裂病)最後に器質的(精神身体的)症状がある。___」(下巻P.84)器質性に接近していると云っているが、脳病だと断言してはいない。 「人格の発展か病的過程か」(下巻P.221〜P.227)という精神病理学の一根本問題は分裂病と直接結びつけられた概念ではなく、その概念構成の要素を分裂病疾患に属せしめているものである。分裂病が脳病であることを予測した問題設定であるといえよう。ベッシェンダールが分裂病と診断した床例について、「___は分裂病の診断を下した(従って、病的過程である)」(下巻P.226)とある。従ってヤスパースの分裂病の概念規定を知らなければならない。

一方、ヤスパースは分裂病を名称として用いてもよいと云うが、二大疾患群の分類に真理の種が潜んでいるに違いないという予測にたつものであろう。(下巻P.34,下巻P.20参照)又、「真正妄想注3を了解しようとすることは多くの試みと関連して、___病的過程なる事実の特異性を抹殺しようという傾向がある。」(人格発展か病的過程かの項)(真正妄想については上巻P.162,P.145〜P.146)しかし、彼の真正妄想の了解不能の限界が生物学的基礎そのものであるかのようにうけとめることはできないであろう。真正妄想は静的了解(Statisches Verstehen)が、不能のもので、即ち、心理学的説明が不可能で、自然科学的対象のように外からの因果的説明が予想されるものである。(静的了解と同じ意味で「現象学的了解という言葉も用いられている。注4後者がヤスパース自身の用語の訳かどうかはわからないが、とにかく、彼に於いては、精神生活の主観的現象の心理学的説明に限って、現象学を用いているようである。精しくは後に。)
 結局、ヤスパースが分裂病が脳の病的過程だとする皮相な見解をもっていないことを確認する為には彼の分裂病の概念規定を調べればよい。


注1
「てんかんは現在ではむしろ「身体的基礎の明らかな疾患の部類に入れられるべきかもしれない」村上仁、異常心理学(改訂版)1965、岩波
注2
「てんかんをはじめ、___神経性不食症などが内因性精神病からはずされつつあるし、いずれは今日いわれている非定型群や___が___もつと鮮明な類型として、新しく見出されるに到るであろう。石川清、精神病理学の諸体系と了解精神病理学的方法、精神神経学雑誌64巻9号、昭和37年
注3
真正妄想と妄想的概念の区別はヤスパースによってはじめてなされた。村上仁、異常心理学、他。
注4
諏訪望、精神病理学総論(二)---力動的精神医学の立場---異常心理学講座第二部、みすず書房、昭和29年、


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